崩壊の序曲は12通の手紙で始まった。
それぞれの妹に届けられた差出人不明の手紙は、彼女たちと
航に血の繋がりがないことを示唆していた。
それは彼女たちの心の中に、「所詮は形式上の関係でしかない」という
不安を醸成するとともに、今まで禁忌として封じられてきたある願望を
解き放つ糸口となるものだった。
愛しい人に自分だけを見て欲しいと願うのは罪だろうか?
一途すぎる想いに背中を押され、ついにある日一人の妹が航に繋がりを求め、
彼はそれを受け容れてしまった。
そして、それは言葉にされることがなくても雰囲気で感じられた。
あるいはこれが恋する乙女たちの直感というものか。
大好きなお兄ちゃんを取られたくない、という想いから、自分にもその娘と同じ、
いやそれ以上の愛情を注いで欲しいと望んでくる妹たち。
そして、それを拒否するには航は優しすぎた。

他の妹たちのことも本当に好きで、その魅力を十分に知っているがゆえに
かき消すことの出来ない彼女たちの不安。
それを忘れることができるのは、愛する人の腕の中に居る時だけ。
他の誰よりも愛して欲しい。他の誰よりも愛を捧げたい。
互いへの嫉妬でささくれ、荒んでいく妹たちの関係。
エスカレートしながら繰り返される情欲と愛憎に彩られた日々。
倫理観や責任感、それぞれの妹への感情、後悔の念、かつて幸せだった日々の
思い出などが航の心の中で渦を巻き、それは冬の積乱雲のように成長していく。
雪のように静かに、だが確実に航の心に狂気は降り積もっていった。

そして、積み上げられた藁の最後の一本が哀れな驢馬の背骨を折るように、
遂に航の心が壊れる日が訪れた。

・・・・・・・・・・・・。
あんなに仲の良かった彼女たち。あんなに幸せだった生活。こんなに荒んでしまった生活。
こんなに荒んでしまった彼女たちの関係。こんなことになってしまったのはみんな僕のせいた。
僕は最低だ。僕に誰かを愛する資格なんてない。でも彼女たちは僕を求めてる。
彼女たちは僕のことが必要だという。彼女たちは他の誰よりも自分を愛してと言う。
でも僕には誰か一人に決めることなんてできない。彼女たちは本当にいい娘たちで、
誰か一人を選ぶコトなんてできない。少なくとも僕がそれを決めて、他の妹たちを絶望の淵に
突き落とすなんてコト、許されるはずがない。
でも、この状況に弱い僕の心は耐えられそうにない。誰かを選ばない限り、この状況は終わらない。
しかし、選べない。選ばれなかった11人のその後を思うと、選ぶことなんてできない。
何より、こんな状況を作り出してしまった最低な自分に、選ぶ資格なんてない。

彼女たち自身に選んでもらうしかない。・・・それしかない。
しかし、生半可な方法では彼女たちは納得できないだろう。それこそ彼女たちの全能力、
全存在を賭けた勝負でなければ、後悔の念が敗者を苛み続けるだろう。
彼女たちは自分がいなければ生きていられないと言う。
ならばそれもいいだろう。文字通り、全てを賭けて僕を奪い合ってもらおう。
終わりのない後悔や絶望とともに暮らすよりも、死神の抱擁のほうが優しいこともある。

たしか何かの小説で読んだ気がする。島の中で、ただ一人だけが生き残れる殺し合いを
行う少年少女たち。あれを参考にしよう。彼女たちに、僕が本気であると知って貰うために。
何より、僕自身の迷いを断ち切るために。
・・・・・・・・・・・・。

一週間ほども部屋に閉じこもり、誰とも会っていなかった航から
「大事な話があるんだ」と言われ、久しぶりに全員で集まっての夕食。
「話は食事の後で」ということで、緊張を湛えたまま静かに食事が進められる。
やがて、一人、また一人と眠りに落ちていく妹たち。
「・・・睡眠薬・・・?!」
そして、彼女たちの意識は闇に呑まれた。

気がつくと、そこは星見ヶ丘西学園の教室だった。
首には冷たい金属製の首輪。
出入り口は、強面の黒服たちで固められていた。
困惑して説明を求める彼女たちに、無言で教卓の上に置かれたTVとビデオデッキが
指し示される。
黒服の一人が再生ボタンを押すと、奇妙に明るい様子の航が画面に現れた。

「やぁ、みんな。目覚めの気分はどうだい。いいわけがない?それもそうか。
不自由な思いをさせて本当にすまないと思うよ。でも僕がこんなことをしたのには
わけがあるんだ。どうか聞いて欲しい。
僕はみんなのことが大好きだ。優劣を付けることなんて考えられないぐらい愛している。
昔、みんなが仲良く暮らしていたころを懐かしく思うよ。あのころは本当に幸せだった。
でも、もうあの頃には戻れない。今の状況は絶対におかしい。このままでいいはずがない。
みんなの中から誰か一人を選べば、きっと今の状況を打開できるんだろうけど、僕には
誰か一人を選ぶことなんてできない・・・できないんだ・・・!!でも、みんなは
自分を選んでくれと言う・・・僕がいなければ生きていられないと言う・・・僕は
どうすればいいんだ?!どうしろって言うんだ?!僕に、選ばれなかった他の娘たちを
悲しみのどん底に落とせって言うのか?!こんなにも愛しているみんなを!!!

・・・取り乱してしまってすまない。とにかく、僕に決められない以上、君たち自身で
決めてもらうしかない、っていうのが僕の結論なんだ。
とはいっても、生半可な方法じゃみんな納得しないよね。それこそ自分の全能力、
全存在を賭けた勝負じゃないと、後でしこりが残ると思う。それに、たとえ全てを
出し切っても、負けたらずっと後悔することになるかもしれない。
だから、文字通り全てを賭けて勝負してもらうことにしたよ。

そう、殺し合いで。

裏から手を回して、今日を含む3日間、プロミストアイランドから僕たち以外の全ての人に
出ていってもらったよ。これから、この3日間で−−−と言っても、今が朝の9時少し前
だから、あと63時間だね−−−みんなに、最後の一人だけが残るまで殺し合いをしてもらう。
僕は、その生き残った一人だけのお兄ちゃんになるよ。

その首輪は、絶対にこれで決着を着けるための小道具なんだ。みんなだけじゃなく島の人たちにも
迷惑をかけたから、絶対にこの3日間で決着を着けなくちゃいけないんだ。わかるよね?
この地図を見て欲しい。これはプロミストアイランドの地図なんだけど、格子状にエリア分けされて
いるのがわかるかな?みんなが戦わずに逃げ回って時間切れ、なんてことがないように、
3時間ごとにこのエリアが一つずつ立入禁止区域になっていくんだ。立入禁止エリアに入ったり、
島の外に出ようとしたら、首輪に埋め込まれた爆弾が爆発するから気を付けてね。
爆弾にはそんなに威力はないけど、頸動脈を吹き飛ばすには十分だから。
63時間後には島の全部のエリアが立入禁止になるから、それまでに決着を着けられるように
みんな頑張ってね。
もし63時間経ってしまったり、相討ちとかで全員死んじゃっても、大丈夫だからね。
その時にはすぐに僕も後を追うから。天国でみんな仲良く暮らそう。昔のように。
ねぇ、みんな。
亞里亞。花穂。可憐。咲耶。白雪。千影。春歌。雛子。衛。鞠絵。四葉。鈴凛。
亞里亞。花穂。可憐。咲耶。白雪。千影。春歌。雛子。衛。鞠絵。四葉。鈴凛。
亞里亞。花穂。可憐。咲耶。白雪。千影。春歌。雛子。衛。鞠絵。四葉。鈴凛。
亞里亞。花穂。可憐。咲耶。白雪。千影。春歌。雛子。衛。鞠絵。四葉。鈴凛。
アリア。カホ。カレン。サクヤ。シラユキ。チカゲ。ハルカ。ヒナコ。マモル。
マリエ。ヨツバ。リンリン。アリア。カホ。カレン。サクヤ。シラユキ。チカゲ。
ハルカ。ヒナコ。マモル。マリエ。ヨツバ。リンリン。アリア。カホ。カレン。
サクヤ。シラユキ。チカゲ。ハルカ。ヒナコ。マモル。マリエ。ヨツバ。リンリン。
アリアカホカレンサクヤシラユキチカゲハルカヒナコマモルマリエヨツバリンリン
アリアカホカレンサクヤシラユキチカゲハルカヒナコマモルマリエヨツバリンリン
アリアカホカレンサクヤシラユキチカゲハルカヒナコマモルマリエヨツバリンリン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みんな、本当に、愛して、いるよ。」

映像はそこで途切れた。画面に砂嵐が吹き荒れる。

12人の妹たちは戦慄していた。
自分たちがここまで航を追いつめていたことに。
死への、そして殺すことへの恐怖に。
しかし、もはや賽は振られ、運命の砂時計は落ち始めているのだ。

黒服たちから、説明の補足として、首輪を外そうとしても爆発すること、能力差だけで
勝負が決まらないように無作為に選ばれた武器がそれぞれ与えられる旨が告げられた。
50音順に名前が呼ばれ、武器と少量の食料と水が入ったナップサックが与えられ
彼女たちは順番に学校から出ていった。

非情なる結末に向け、開幕のベルは鳴らされた。